労働審判とは?

 労働審判とは、労働者と使用者との間の労働に関する紛争を迅速かつ適切に解決するための手続です。労働審判を適切に利用することで、労働者と使用者との間のトラブルを迅速に解決することを目指せます。以下では、労働審判の特徴や手続の流れを説明します。

労働審判の特徴

迅速性

 労働審判の最大の特徴は迅速性です。労働審判は原則として3回以内の期日で審理を終えることになっているため、迅速な解決が目指せます。労働審判制度が開始された平成18年から令和4年までに終了した事件について、平均審理期間は81.2日であり、66.9%の事件が申立てから3か月以内に終了しています(裁判所ウェブサイト)。

実情に即した判断

 労働審判は、労働審判委員会によって審理が進められます。この労働審判委員会とは、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員(労働紛争に関する専門的な知識・経験を有する人)2名で構成されます。訴訟では裁判官のみで紛争の解決を目指しますが、労働審判は、労働実務に関する専門的な経験と知識を有する労働審判員が審理に参加するため、労働の現場の実情に即した判断が期待できます。

非公開

 労働審判は、原則として非公開とされており、労働審判委員会が相当と認める者でなければ傍聴することができません。そのため、訴訟のように公開の法廷で審理が進められることを避けたい場合にも向いているといえるでしょう。

労働審判の対象

対象となるもの

 労働審判は、労働者個人と使用者との間の紛争が対象となります。例えば、残業代の未払いや不当解雇などは労働審判の対象となります。

対象外のもの

 一方、労働組合と会社との間の紛争や、労働者同士のトラブルは対象外となります。そのため、個人(上司など)を相手とするセクハラやパワハラなどのトラブルは対象外となります(セクハラやパワハラであっても、会社を相手に損害賠償を求めるものは対象となります)。
 また、労働審判は迅速性が特徴であるため、3回以内の審理で解決することが困難であるような紛争についても、対象とすることは不適当であるといえます。

労働審判の流れ

申立て

 労働審判は、申立書や証拠を裁判所に提出することから始まります。提出先の裁判所は、相手方の住所や事業所の所在地、労働者が働いている(又は最後に働いていた)事業所の所在地、当事者間で合意がある場合には合意した場所の地方裁判所となっています。

期日指定・呼出

 申立てが行われると、裁判所が第1回の期日を指定します。第1回の期日は、原則として申立てから40日以内の日が指定されます。
 相手方には、期日を知らせる書面とともに、申立書の写し、証拠書類の写し、答弁書の提出期限についての書類などが送付されます。相手方は、第1回期日より前の指定された日までに、申立書への反論や詳細な事実の経緯の説明、証拠の提出などを行う必要があります。通常の訴訟よりも答弁書を準備する期間が極めて短いため、相手方は裁判所から書類の送付を受けたら速やかに準備を進める必要があります。また、弁護士に依頼する場合には、1日でも早く相談に行くことが重要です。

審理

 審理では、双方の言い分を聞いて争点を整理したり、証拠調べを行ったりします。裁判所によっては、第1回の期日から和解に向けた話し合いを進める運用をしているところもあります。主張や証拠の提出は基本的には第2回期日までとされており、最後の期日である第3回期日で主張を追加したり、新たに証拠を提出したりすることは原則としてできません。

事件の終結

 両者の間で話し合いがまとまれば調停成立となります。毎年、約70%前後の事件が調停成立により終結しています。
 話し合いがまとまらない場合は、労働審判委員会が審判を下します。審判は、事案の実情に即した判断を行うため、例えば、復職を求めていても金銭の支払いでの解決をする内容の審判が下されたりすることもあります。
 また、事案が複雑であるなど、3回以内の審理で解決することが見込めない場合は、調停や審判によらず事件が終了することもあります。

訴訟移行

 審判に対しては、審判書の送達日又は審判の告知を受けた日の翌日から起算して2週間以内に異議を申し立てることができます。異議申立ては、裁判所に異議申立書を提出することによって行います。
 異議申立てがされると、審判は効力を失い、通常訴訟へと移行します。

まとめ

適切な利用で迅速な解決が目指せる

 以上のように、労働審判は、迅速な解決や話し合いによる妥当で柔軟な解決を目指している手続であるため、適切な事案で用いることによって、迅速にトラブルを解決することが期待できます。

綿密な準備が必要

 その一方、労働審判は迅速な解決を目指している分、短期間で十分な主張や証拠の提出を行わなければならないため、綿密な準備が必要となります。
 労働審判は、弁護士に依頼しなくても行うことが可能ですが、短期間で準備を行い、期日でも的確な主張・立証を行うためには、専門家の力を借りることも必要でしょう。
 労働関係のトラブルでお悩みの方、労働審判の申立てを考えている方、労働審判を申立てられた方などは、一度弁護士に相談されることをおすすめします。