相殺とは
相殺とは、債権者と債務者が同種の債権を有するときに、一方の意思表示によって、債権債務を対当額で消滅させることをいいます。
簡単に言うと、お互いの債務を消滅させて、返す手間を省くということです。
例えば、AさんがBさんに対して5万円のバッグを売っており(バッグは引き渡し済み)、一方、BさんがAさんに10万円を貸している(返済日は到来済み)場合を想定します。この場合、それぞれの債務を履行するならば、①Aさん→Bさんに10万円渡す、②Bさん→Aさんに5万円渡すという2つの行為が必要になります。
一方、もし、どちらか一方が相殺の意思表示をした場合、AさんからBさんに5万円を渡す債務が残るのみであり、Bさん→Aさんにお金を渡す必要がなくなります。
相殺が有効な手段となってくるのは、上の例でAさんがお金を返せなくなった場合などです。その場合、Bさんは、相殺をすることによってAさんに対する債務を無くすとともに、Aさんに対する債権の一部を回収することができます。
相殺の方法
相殺は相手方に意思表示をすることによって行います。意思表示は口頭でも可能ですが、意思表示をした証拠を残さなければ、後々に相殺の効力を争われた場合に証明することができません。
そのため、相殺の意思表示をした証拠を残すために、①書面で行い、②配達証明付の内容証明郵便で相手方へ到達させることが必要でしょう。
相殺通知書の記載事項
相殺の意思表示を行う書面を一般的に相殺通知書と呼びます。以下では、相殺通知書に記載すべき内容を説明します。
自働債権と受働債権の特定
まず、相殺通知書に記載すべきことは、自働債権と受働債権を特定するための記載です。
自働債権とは相殺の意思表示をする側が相手に対して有する債権、受働債権とは意思表示を受ける側が相手に対して有する債権のことをいいます。
自働債権と受働債権を特定するための記載がなければどの債権が相殺の対象となるのかがわからないため、明確に特定する必要があります。特に、お互いに複数の債権債務関係がある場合には、特定は不可欠です。
相殺適状にあること
また、相殺をするには、相殺適状であることが必要であるため、そのことを明らかにすると良いでしょう。
相殺適状とは、双方の債権が相殺できる状態(弁済期の到来)にあることをいいます。受働債権については期限の利益を放棄することによって、弁済期が到来していなくても相殺適状にすることができます。また、自働債権についても、契約に期限の利益喪失条項が定められている場合には、その条項を適用して期限の利益を喪失させることによって、弁済期が到来したことになります。
相殺の意思表示
相殺通知書は、相殺の意思表示をするための書面であるため、相殺の意思表示の記載が必要です。
相殺の意思表示は、「自働債権と受働債権を対当額で相殺します」と書いてあれば十分です。
相殺後の債権債務の関係
最後に、相殺後の債権債務の関係を明確にし、相手方に対して債権が残っている場合にはその支払いを求めることが良いでしょう。
相殺通知書の記載例
以上の点を踏まえた相殺通知書の記載例は以下のとおりとなります。
相殺通知書
令和◆年◆月◆日
〇〇株式会社 代表取締役 〇〇 〇〇 殿
▲▲株式会社 代表取締役 ▲▲ ▲▲ ㊞
当社が貴社に対して有する債権(令和●年●月●日付金銭消費貸借契約に基づく貸付金債権、弁済期:令和◇年◇月◇日、債権額200万円)と当社が貴社に対して負っている債務(令和◎年◎月◎日付売買契約に基づく売買代金支払債務、債務額100万円)を本日、対当額で相殺しますので、本書で通知いたします。
相殺後の当社が貴社に対して有する残債権額(100万円)については、令和□年□月□日限り、お支払いください。
以上
まとめ
相殺は、債権回収をする際に有効な手段です。
相殺の意思表示がなされたことを明確にすること、相殺の対象債権・債務を明確にすることなどを注意して行うことが必要です。
債権回収は、相手方の会社の状況や債権債務の状況などによって、使うべき手段や書面への記載内容が異なってくる場合があります。債権回収でお困りの方は専門家である弁護士にご相談ください。